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深野羅紗店の髙橋と申します。以下は新店舗の内外装デザイン等に関する紆余曲折を、私の目線で綴った備忘録です。

読み物としてまとまりが無く、面白いかどうか不安がありますが、店舗移転は珍しい機会ですので、私どもの体験を臨場感を持ってお感じいただけたらと思い、本形式で書き下してまいります。

 

2024年1月頃
2024年の始め頃、建物老朽化による店舗移転の可能性が浮上。確かにこのところ、建物の不具合を感じる事が多かったが、移転を余儀なくされるほどとは考えてもいなかった。話自体が突然だったこともあり、現店舗が大好きな私は思わず涙がこぼれてしまった。ただ、この意向は私以上に現店舗を深く愛している方々のものであるので、いかに苦渋の決断をされたのかと思うと、私は悲しむのではなく新店舗をより良きものにすべく、プラスの意志を強く持たなければと考えに至った。

不思議なもので、移転の話が浮上して以降、建物が拗ねているようだ。これまで以上に不具合の連続で、重要な部分の故障も発生した。やはり限界がきていたのかと思う一方で、より愛着も感じられた。移転先にはできるだけ現店舗のパーツを利用して、生まれ変わらせるようなデザインにできたらと思った。また、建物とは関係ないが、この機会に当社これまでの歴史をまとめた資料を作成したいとアイデアを得た。

2024年2月頃
店舗デザインやら歴史の資料やらと宣ったが、肝心の店舗をどこに構えるのか。これが最優先である。物件資料をかき集めた。現店舗から近く、お客様から見た時、移転をプラスに捉えてもらえるような物件でなくてはならない。公共交通機関からのアクセスも良く、立派に感じられる物件。詳細は割愛するが「ここでもない、あそこでもない」と、やっと見つけたのが今回の移転先である。さて、ようやく箱が決まった。写真で分かるようにスケルトンである。これをどう“深野羅紗店”に仕上げていくのか、緊張感のある高揚を感じた。


新店舗デザインを考えるにあたり、まず私が一番にやりたいと思ったのは「現店舗のガラス戸を移設」することだった。このガラス戸は73年間も現店舗の玄関としてお客様を迎えてきたもので、私からすれば“現店舗の顔”とも感じる重要なパーツである。加えて言えば、これに使われているガラスは、「ゆれガラス」などとも言われる貴重なガラスで、現代では生産できない代物だ。ガラスの製造技術の未熟さゆえ、均質な平面でないため、光の歪みがうまれる。仕事中、ふと外を見ると風景がゆらゆらと歪んで見える。そんな現店舗のガラス越しに見る景色が私は好きだ。これを残さなくて何を残すか、と思うほどである。

そんな私の強い思いに反して、ガラス戸移設への障害は複数あった。まず、移設先の現状は自動ドアが付いていること。新型のドアを73年前の引き戸に変えるなんて、と言われてしまいそうだ。さらに、移設工事がなかなか大変でお金もかかること。ほかにも、消防法の規定など難題はいくつかあった。しかしながら、結果としてガラス戸の移設は叶った。これは、私の思いを汲んでこれらの障害を跳ね除けてくれた当社社長のおかげだ。この場を借りて強く、感謝を申し上げたい。社長、本当にありがとうございます。

2024年3月初旬頃
先のガラス戸の移設については強い思いを述べたが、逆に言えばそれ以外の内外装について、私はほとんどアイデアを持っていなかった。まだまだ決めることはたくさんある。まずは街中のおしゃれな店舗や、英サヴィルロウを念頭に、ざっくりデザインを考えてみることにした。大切にしたのは、現店舗にあるような、古き良き佇まいを活かしつつ、それを現代の意匠で包摂すること。温故知新の精神で過去、現在、未来の良きミックスができたらと考えた。

某アイリッシュパブチェーンのような、欧風のデザイン。描いてみて良い部分もあるが、どこか“コスプレチック”に感じた。「おしゃれをコスプレにしない」これは、私が服のデザインやコーディネートを考える際に大切にしていることである。服で言えば着る人がいて、行く場所がある。それぞれに調和していて、浮いていないことがおしゃれの基本だと思う。コスプレは、あえて浮いている非日常を楽しむものであるから、それ自体を否定しているのではない。ただおしゃれとは、日常の延長にあるものだと私は考えているのだ。

さて、話を店舗デザインに戻す。かつて「店舗は非日常をお客様に楽しんでもらう場、いわばディズニーランドだ」と言われたことがある。矛盾するようだがそれも重要な考え方だと私は思う。注文服というエンターテインメントを楽しんでもらうには、それ相応の場所でなければならない。ただし、注文服店はそれと同時に、リラックスできる空間であるべきだとも思う。時には2時間近く店舗で過ごしていただくわけで、もしお客様がずっと緊張した状態であると、適切なヒアリングもできないし、もしかすると採寸結果にも影響するかもしれない。だから、非日常ではありつつも、お客様が親近感を覚えるような空間であることも大切にしたいと思っている。先のおしゃれの話と合わせると、つまりは「行き過ぎたデザインではなく、簡素で人や街に調和しつつお客様がワクワクできる店舗」でありたいと考えた。と、長い能書きを述べたが肝心なのは、実際にデザインに落とし込むことだ。なんとか頑張って描いてみようか、と不安ながらもiPadに向かっていた頃だ。

2024年3月中旬頃
店舗デザインを決めるにあたり、もうひとつ重要視した点がある。素材の耐久性だ。当社社長から「深野羅紗店は100年後も続いているから、それを念頭に置いた店舗にしてほしい」とあった。普通はなかなか言い切れない素敵な一言だ。さて、であれば店舗に使う素材は、劣化しないものでなければならない。先のデザイン画では木材を多用した想定であったが、それでは数十年後にどうなっているかわからない。したがって、新店舗に使う素材は、石材や金属を中心とすることが決定。数十年後も劣化ではなく経年変化で、月日が円熟した渋みを伴う様相になることを目指す。

徐々に条件が決まってきた深野羅紗店の新店舗。先の理由から、サインや袖看板は金属に。特に、緑青が出てくる様子が素敵であるため、銅の素材を選択した。深野羅紗店の字体は、創業社長の深野義則が直筆したものを掲げた。私はこの字体がとても好きだ。創業時の文字を新店舗に掲げ、それが経年変化していく未来を見られるというのは、先に述べた時代をミックスする概念ともリンクする。ここは良いとして、悩みに悩んだのは外壁だ。素材は石材と決まったとは言え、その選択肢は無数にある。延べ30ヶ以上のサンプルを取り寄せて、考え尽くした。緑色のタイルや大理石にする案など、さまざま検討を重ねたが、結果としてシンプルなチャコールグレーを採用。街並みとの調和、未来における飽きの来なさを重要視した。渋みと現代的な無機質感を兼ね備えた良い外壁になったと思っている。

また、外壁と同じくらい悩んだのが床材だ。耐久性の点から、木の無垢材の案は無くなったが、現代的なコンクリート床にするとか、ハニカムタイルでレトロにするとか、大理石にするとか、あらゆる選択肢が存在し、私は非常に頭を悩ませていた。そんな折、大理石派だった当社社長(私は大理石は面白くないと思っていた)から、「緑の大理石ってないのかな。深野羅紗店カラーの緑」と一言。大理石と言えば、白やら黒やらのイメージで後ろ向きな私だったが、「緑の大理石なら面白い」と目から鱗であった。それならばと探したのが「印度蛇紋岩」という石材。サンプルを取り寄せて、間違いないと即断した。

2024年3月下旬
そんなこんなで、ようやく私も店舗のイメージ画像を描くことができた。ここだけの話、我ながら素人なのによく描いたと思っている。図の木の部分は、当初の欧風デザインを残しつつ、よりシンプルに。中心に据えた現店舗のガラス戸の素朴さと合うように意識した。また、店舗左側には、深野羅紗店カラーの緑色の球体照明。これまた当社社長のアイデアだ。既製品では売っていなかったので、特注を視野に入れたデザイン案になった。

2024年4月
デザインと関係ないので深くは言及しないが、銅の袖看板や緑の球体照明の特注。また、ガラス戸の移設も、やってくれる業者様を探すのが非常に大変だった。デザインを描く以上に、探すのも調整するのも骨が折れた。結果的にはなんとか形になりそうで良かったのだが、もちろん予算もあるので、この時期は数十社とのやりとりに疲労困憊した。

2024年5月
いよいよ着工。最初は床の工事からだったのだが、床が張り終わった時は、これまでの試行錯誤がようやく形になったことに、一瞬大変感動した。一瞬というのは、まだまだ考案、調整しなければならない箇所が多く、すぐ次へと頭を切り替えなければならなかったからだ。それにしてもまず床は素敵に仕上がったと思う。蛇紋岩と良く合うと思い、真鍮の目地を入れたことも拘りのひとつだ(これも実現するのに大変苦労した)。

 

なお、新店舗の天井は一般的な高さで、そのままだと現店舗のように生地を高く積み上げられないため、天井を解体する工事も行った。これにより、よろ多くの生地をお客様にお見せできるようになった。

2024年6月
床のあとは店内の間仕切りなどの基礎的な工事を経て、私が最も神経を注いだ内外観の木部の塗装へ。これが良い雰囲気でないと店舗の雰囲気が台無しである。これまたイメージ図も描いて相当悩んだ結果、濃いこげ茶色に決定。施工後の写真は撮まだれていないので、後日アップする。

また、同時進行でガラス戸を移設するため現店舗から1枚外し、現在加工中。ガラス戸があった場所は現在写真のように塞いでいる。

店舗の顔となるファサード部分の木枠が完成。塗装ではなく、オイル仕上げでナラの木材の風合いを残した。色味は決めるのに色々迷ったが、渋みのある濃い茶色に決定。

現店舗2階にあった、生地を置く飾り棚を新店舗に移設するため一度引き上げた。非売品の生地など、レアなものがちらほら発掘された。新店舗でどのように使われるかはまた後日更新予定。

6.10更新(随時更新予定)

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